ある閉ざされた ガラスの箱で。
私は常々、思っていた。
魚が懐かない。と。
カージナルテトラを飼い始めて8カ月。
はじめからエサ食いの悪い魚たちではあったが
カメラを向けただけで、なるだけ低空飛行。できれば隠れたい。という気持ちが透けて見える。
水替え、トリミングなどもってのほかだ。
そんなことをしたら、しばらく誰もいない水槽のごとくなってしまう。
私は、魚達のこんな姿を見るために水草水槽を始めたのか?
否。
水草の茂る水槽に、悠々と泳ぐ魚の群れを思い浮かべ。夢想していた。
1度でいいから、この魚達が悠々と楽しげに泳いでいるところを見てみたい。
私はコインを1枚だけ握りしめ、自転車にまたがり、家を後にした。
「今日は、今日こそはあいつらの仲間を連れて帰ってやる。楽園をつくってやる」と、心に決めて。
果たして、店には黒髭に覆われた水槽で、金魚とやグッピー達が暇そうに泳いでいる。
こちらをチラリとも見ない。
確かに悠々とはしているが、こういうのではない。
我が家の、繊細なカージナルたちと、上手くやっていけそうなヤツらはいないのか?!
コインを握りしめている手のひらが、じっとりと汗ばんでくるのが分かる。
と、一番隅っこのガラスの箱に群れでというより、めいっぱい詰められて入っている一群に目が止まった。
この水槽だけは、黒髭が少なく、魚も密度のわりに活がよさそうだ。
なにより、私を怖がるそぶりはない。
値段を確認する。
1匹50円
10匹400円
20匹…
私は途中で目をそむけた。この展開はどこかで見たことがあるような気がしたからだ。
ともかく、手の中にある1枚のコインのみが私のすべてだ。
呼び出しのブザーを何度か押し
店員に10匹。と頼み、掬う様子をぼんやり眺める。
彼女は手慣れた様子で次々掬っているようだ。…ようだ、というのは
私に完全に背を向けていて、どう作業しているのか分からなかったせいだ。
袋に詰めて、バーコードシールを貼り、水合わせの注意点を笑顔で2点ほど説明してくれた。
そして、私が袋の中にどんな個体が入っているのかと、目を落とした時には彼女の姿は遠く見えなくなっていた。
…数が少ない。何度も数え直して、そう結論を出した時には、どうにもならない状況になっていた。
だが、袋に入っている状態では、なかなか正確な数は分からないものだ。
10頼んで、5なら文句もいえようが
9なのだ。
1匹50円で9匹なら450円。…値段シールは400円。
大きな計画を前に、このことがとても小さな事のように思えて、
私はもう、呼び出しブザーを押す事はしなかった。
約10匹の魚とお釣り100円を落としたりしないように大切に自転車で運んだ。
温度合わせは慎重に。
もちろん。
水合わせも大切だ。
蓮華で水槽の水を少しづつ掬っては、新しい魚たちを歓迎するように優しくかけてやる。
そして、十分かと思う頃、蓮華ですくい放してやる。
さぁ!悠々とした様を見せておくれ!
約10匹の半分は、どこかに隠れてしまった…
4匹のカージナルと、約10匹の魚達の新しい生活の始まりである。
カージナルテトラより一回り小さい、ネオンテトラを入れてみました。
そして、やっぱり9匹みたいです(水槽に入れる時に数えた)
毎朝、点呼するのですが、いつも誰かが隠れていて、ちゃんと13匹いるかどうかは、もう、誰にも分からない…
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